ドッグフードとキャットフードの違い

ドッグフードとキャットフードは違う

犬と猫の両方を飼っている飼い主の方々は、犬にキャットフードを与えても良いのではないかと考えたことがあるかもしれません。実際に与えてみるとよく食べるし、総合栄養食のキャットフードはドッグフードよりもタンパク質や脂質が多めですので、むしろ栄養価が高くて良いと思いたいところです。しかし、犬と猫では必要な栄養バランスが異なっていますので、犬がキャットフードを食べ続けると、ある栄養素は過剰摂取となり、また別の栄養素は摂取不足となって、愛犬が体調を崩してしまいます。

犬と猫では必要な栄養素が異なる

AAFCO(米国飼料検査官協会)は犬と猫のそれぞれに必要な栄養素を示しており、これは日本で売られているドッグフードやキャットフードの総合栄養食の基準にもなっています。それらを比べてみると、犬と猫に必要な栄養素の種類や量には違いがあることがわかります。その中のいくつかを、犬と猫の体の仕組みの違いとともに見てみることにしましょう。

タンパク質

猫は犬よりも肉食の性質が強い動物で、腸の長さが短く、炭水化物から得られる糖類のグルコースを肝臓に貯蔵するための酵素の量も少ないため、炭水化物から糖を得て体内で上手に代謝し利用することが得意ではありません。しかしその代わりに肝臓でタンパク質(アミノ酸)から糖(グルコース)を作り出す酵素の活性が高く、この仕組み(糖新生)をよく利用してエネルギー源を得ています。このように、猫にとってタンパク質は体を作るだけでなく主要なエネルギー源でもあるため、キャットフードにおけるタンパク質の含有率はドッグフードの含有率よりも高くなっています。
一方で犬は、炭水化物から糖を得たり、血糖値の調節のために肝臓に蓄えたりする能力が猫よりも高いので、エネルギー源としてのタンパク質の必要量は猫よりも少なくて済みます。そして、タンパク質は余っても体内に蓄えておくことができないため、毛や皮膚や筋肉や臓器など体を作るために利用されて残った分は、肝臓と腎臓の働きにより尿として体外に排出されます。つまり、たんぱく質を過剰に摂取すると、肝臓と腎臓に排出のための負担がかかることになってしまうのです。

アラキドン酸(脂質)

アラキドン酸はオメガ6脂肪酸のひとつで、動物性の脂肪に含まれています。犬は体内でリノール酸からアラキドン酸を生成することができるので、AAFCOは犬に必要な摂取量の基準値を示していません。猫はアラキドン酸を体内で生成できないので食物から摂取する必要があり、AAFCOでも猫の必要摂取量は示されていて、猫の総合栄養食は必ずアラキドン酸が摂取できるようになっています。アラキドン酸は皮膚や毛、生殖機能、免疫機能などを正常に保つために必要ですが、過剰に摂取すると刺激により炎症を引き起こす前駆物質となって、アレルギー性の湿疹やアトピー性皮膚炎などの症状が出たり、動脈硬化など心臓や血管の不調が生じたりする恐れがあります。体をうまく調節するためには、他の脂肪酸とのバランスを取ることが大切です。

ビタミン

ビタミンA

脂溶性ビタミンであるビタミンAは、目、毛、皮膚、粘膜、歯、骨などの健康に重要な役割を果たします。犬はβ-カロチンからビタミンAを合成することができますが、猫にはできません。過剰なビタミンAは肝臓などの脂肪組織に蓄積されますが、摂取しすぎると食欲不振、骨や関節の異常、免疫機能の低下などが起こる恐れがあります。過剰摂取により健康への悪影響が生じやすいため、AAFCOでは犬・猫ともに摂取量の上限が示されていますが、犬より猫の方が高い上限値となっていますので、犬がキャットフードを食べ続けると過剰摂取になる恐れがあります。

ビタミンK

脂溶性ビタミンであるビタミンKは、血液を凝固させる機能や骨の代謝、細胞の増殖などに関係する栄養素で、犬も猫も腸内でビタミンKを作ることができます。AAFCOは犬については摂取量を示していませんが、猫は腸内で生成する分だけでは足りないことが分かっており、食物から摂取する必要最低限の量を示しています。過剰摂取による健康への影響ははっきりしておらず、犬も猫も摂取量の上限値は示されていません。

ナイアシン

水溶性ビタミンであるビタミンB群のナイアシン(ビタミンB3)は、エネルギー源となる糖質や脂質の代謝や、皮膚、粘膜、脳神経の働きなどをサポートしています。犬は体内でトリプトファンという必須アミノ酸からナイアシンを合成することができますが、体内で作り出す量だけでは足りません。また猫は体内でナイアシンを生成することができません。ですので、犬も猫も食物で補う必要があるのですが、AAFCOでは最低限必要な摂取量は犬の方が少なく示されています。ナイアシンが不足すると、皮膚や粘膜、中枢神経などに異常を来たす恐れがありますが、過剰摂取による悪影響の心配はあまりないとされています。

タウリン

犬は体内のシステインというアミノ酸からタウリンを合成することができますが、猫は体内で作り出すことができません。タウリンには抗酸化作用があり、また心臓機能、生殖機能、視覚や聴覚機能の維持にも必要です。不足すると白内障や心筋症、不整脈などが心配されますが、過剰摂取の影響はあまりないと言われています。

プロピレングリコール

ドッグフードには、水分保持や保湿のためにプロピレングリコールという添加物が添加されていることがありますが、猫がこれを摂取すると赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパク質が変性し凝集して全身へ酸素を送る機能が低下し、貧血のような状態になってしまいます。このため、愛玩動物用飼料の成分規格等に関する省令で、プロピレングリコールは猫を対象とする販売用愛玩動物用飼料に用いてはならないとなっています。

犬にはドッグフード、猫にはキャットフードを

犬と猫に必要な栄養素の種類はおおむね同じですが、いくつか違うものもあり、また各栄養素の必要量やそれぞれの栄養素が犬や猫の体内でうまく働くための摂取バランスも異なっています。そして健康への影響について大まかに言えば、犬がキャットフードを食べると肥満や内臓疾患の原因になりやすく、猫がドッグフードを食べると栄養不足や消化不良や中毒のような状態になる恐れがある、となります。やはり、犬にはドッグフード、猫にはキャットフードを食べさせて、健康な状態を保ってあげた方が良いでしょう。