農薬検査公開のドッグフード

農薬とは

農薬とは、農作物に害を及ぼす虫や微生物、ネズミなどを退治したり、雑草を枯らしたりするために使われるものです。農薬というと薬剤などの化学物質が真っ先に思い浮かびますが、化学物質ではない農薬もあります。例えばハダニを駆除するためにハダニを食べるチリカブリダニを畑に撒くなど、害を及ぼす生物の天敵(この場合はチリカブリダニ)も生物農薬と呼ばれる農薬の一種です。また、農作物を守るためだけでなく、農作物の発芽や開花などの成長を調整する薬剤も農薬として扱われており、いずれも農薬取締法による規制の対象になっています。

ドッグフードに残留する農薬

このように農薬にもいろいろありますが、犬の健康に悪影響を及ぼすことが心配されるのは、原材料の生産に使われて最終的にドッグフードに残留してしまう化学物質です。穀物や野菜の栽培はもとより、鶏や豚など畜産物が食べる飼料にも含まれていますし、畜舎の害虫・雑草除去の際に撒いた農薬を吸い込むという形で家畜の体内に入ることもあります。

なぜ農薬を使用するの?

農薬を使用する目的は、農作物の品質を保ち、十分な量を生産し、できるだけ安価に市場に供給するためです。オーガニック栽培や減農薬栽培といった取り組みも増えてはきましたが、農薬を使用した農作物に比べて手間がかかるため、どうしても生産量は少なく、市場に供給される量は不安定で、値段は割高になってしまいます。これは人間の食品でもドッグフードでも同じことです。

農薬に関する規制

農薬は無制限に使用して良いわけではなく、日本では人間の食品に関係する農作物については農薬取締法や食品衛生法で規制されており、健康への影響を考慮して、使用してよい農薬成分の残留基準値、使用量、使用回数、収穫の何日前まで使えるかなどを国が決めています。これはポジティブリスト制度となっていて、何百種類もの成分について基準値が定められ、定められていない成分は一律の基準値とし、それ以上の量が食品に残留することを規制しています。
これに対してドッグフードは、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)と関連する省令で、5種類の農薬成分について残留量の上限値が定められていますが、人間と比べると安全に使用するための指標がまだまだ少ない状況です。

農薬と健康被害

現在、ペットフード安全法に基づく愛玩動物用飼料の成分規格等に関する省令で定められている5種類の農薬成分とはどのようなものなのかを見てみましょう。

アミノ酸系の除草剤:1種類

  • グリホサート(残留上限値15μg/ g)

雑草の種類を選ばずに効果を発揮し、植物の成長に必要な酵素の働きを妨げます。アミノ酸系の除草剤は、植物の葉や茎にかかると全体に行き渡り根まで枯れます。人間や動物はターゲットとなる酵素を持っていないため危険性は低いと言われています。また、土壌に達すると微生物によって分解されるため、安全性が高いとされています。
一方、WHOの外部研究機関である国際がん研究機関はグリホサートを「おそらく発ガン性のある物質」(2A)に指定しています。

有機リン系の殺虫剤:4種類

  • クロルピリホスメチル(残留上限値10μg/g)
  • ピリミホスメチル(残留上限値2μg/ g)
  • マラチオン(残留上限値10μg/ g)
  • メタミドホス(残留上限値0.2μg/ g)

有機リン系の殺虫剤は、昆虫の体内でコリンエステラーゼの働きを阻害して神経伝達機能を不調にすることで、害虫駆除の効果を発揮します。有機リン系殺虫剤の中毒症状としては、倦怠感、頭痛、めまい、吐き気、唾液分泌過多、下痢などがあります。いずれの成分も、毒性試験において発がん性、催奇形性、発達神経毒性、遺伝毒性は認められていません。

農薬検査公開のドッグフード

オーガニックのドッグフードは農薬の心配がないけれど値段が高く、手ごろな価格のドッグフードは残留農薬の心配があり、悩ましいところです。ドッグフードメーカーの中には、残留農薬に関する情報を提供し、自社のドッグフードを安心して購入してもらう取り組みをしているところもあります。しかし、公表していると謳っていても、自社のホームページに積極的に掲載しているメーカーを探すのはかなり難しい状況です。これは完全無農薬を謳ったドッグフードも同様で、メーカーのサイトに残留農薬ゼロを証明する第三者機関の検査情報を見つけることは、少なくとも日本語のサイトではほとんどできません。不安を払しょくするためには、こちらから問い合わせる必要がありそうです。

残留農薬とうまく付き合うために

残留農薬に関する検査結果を理解して良し悪しを判断するためには、農薬の様々な成分が犬に及ぼす影響について多くの知識が必要で、専門家でもない限り安全かどうかの判断をすることが難しい分野です。ペットフード安全法にある5種類の成分は何百種類もある農薬成分のうちのほんの一部ですが、たった5つを知るだけでも少々難しいと感じて、漠然と不安な気持ちになる方もおられるでしょう。現在の日本では、少々お値段が割高でもできるだけ農薬の心配がなさそうなドッグフードを購入してなんとか納得するしかないというのが実情です。
基本的には、日本の法令に反した製品は市場に出回らない仕組みになっていますし、農林水産省が定期的にドッグフード取り扱い事業所への立ち入り検査を実施し、農薬も含めた成分の検査結果の公表を行っています。そこでは具体的な含有値は公表されませんが、違反の有無は明示されますので、違反を抑止する力になっていると思われます。
日本もドイツなどのように、人間と同様のレベルの基準がドッグフードにも適用されることが、最もシンプルで納得できるルールなのかもしれません。